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ジャニーズは夢の世界ではなく現実。うまく取り入れてヲタ活と日常生活のいいとこどりをゆるゆるめざしてます。

銀河鉄道の父

福田悠太が、宮沢賢治を演じる。

今年に入ってモンスター、幽霊、天使を演じてきた彼がついに実在した人物を……しかも作家を演じるなんて。

読書家の彼にあまりにぴったりすぎて、ビジュアルを見てそのイメージのぴったり具合にますます感心して、ずっと上演を待ち侘びてました。

そして昨日、自由劇場でのたった1週間の上演期間は終わりを迎えて。千穐楽を見届けてきました。

 

今年見た福ちゃんの舞台作品の中でもしかしたら一番好きだったかも……?と思えたこの作品。

 

「好き」の気持ちに理屈はない!とも思いつつ、観劇直後の今だからこそ自分なりに向き合ってちゃんと言葉にしておきたくて。こうして文章を綴っています。

 

福ちゃんがよかったー!ということだけじゃなく。一つずつ向き合ってみたら、いろいろな角度でこの作品に魅力を感じてることに、気づきました。

 

 

◻️作品概要

初演は2020年。今回は再演で、福田くんは初参加でした。菅田将暉さんが宮沢賢治役をやられていた映画版をご覧になった方もいらっしゃるかもしれないですね(私は初演も映画も見れておらず、今回がはじめましてでした)

詳しくはこちら。

「舞台」銀河鉄道の父

 

◻️演出の力

今回の演出は青木豪さん。森田剛関連では「鉈切り丸」「IZO」、三宅健関連では劇団☆新感線「ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~」……と、脚本が青木さんで演出がいのうえひでのりさんという組み合わせの作品は、何度か観たことがありましたが。青木さんの演出作品を観たのはもしかしたら初めてだったかもしれません。

いやー、すごかったです。誰かの生涯を描く作品はこれまでも観たことがあったけれど。幼少期は子役の方が演じていたりする中で、今回はなんと出演者が人形をぶらさげて、演じるという私自身は初めて観たスタイル。「に、人形!?」と思うかもしれませんが、演出の力なのかまったく違和感がなくて。むしろ子供ならではの無邪気さやチャーミングさ、大人が大切に愛でるかんじがよく伝わってきました。兄の賢治が成長するにつれ、自分の人形を弟の清六に受け継いでいくかんじも見事で。同じ人形なのにちゃんと「賢治」と「清六」に見えるんです。

「時間軸」「現実世界と死後の世界」の見せ方にも驚きました。シンプルなセットなのに、キャストの立ち位置や照明によって「ああこれは生きてた頃の話なんだな」「これは生と死の狭間の世界なんだな」がなんの疑問もなく理解できる。これって舞台ならではの難しさであり、すごさだよなあと。

後は、言ってしまえば「親が2人の子供を失う話」にもかかわらず、「ただ悲しみに暮れる物語」になっていなかったのも演出の力だと思いました。コミカルさも混えつつ、あたたかくてしっかり愛が伝わってきて……なんというか、「救いようのある話」になってたなーと。1回目、2回目、3回目と観れば観るほどに、いかに自分が「好き」と思った理由に演出の面が大きいか……を実感しました。青木さん演出作品、またぜひ観てみたいです。

 

◻️30代に刺さる作品の奥深さ

何も30代だけに刺さる!と言いたいわけではなく、その方の年齢やライフステージに応じてそれぞれの刺さり方がある作品だなと思うのですが。

個人的には今34で、もうすぐ35を迎えるこの歳だからこそグッとくるものがあり。自分も親から計り知れない愛情を注がれてきたんだよなーとか、近い将来私も親になれるのだろうか……とか。いろいろ考えちゃって。的場さんがカーテンコールで「今すぐとかじゃなく、何年か経ってからふと思い出してもらえる作品になっていたら嬉しい」とおっしゃってましたが、きっとこれから先の人生でふと思い出すことが、あると思います。不思議とそれは、確信が持てていて。

それほど「一時のドラマティックさ」ではなく「引き出しの奥にずっと残り続ける、じわじわした愛」のようなものをいただけた作品でした。

 

◻️福田悠太「主演」じゃないからこその良さ

ここ最近の福ちゃんの出演作品を思い返すと、主演が続いてたかなと思うのですが。今回の座長は的場浩司さんで、福ちゃんは出演者。主演じゃなかったからこその新鮮な良さをたくさん味わえた作品でした。

アイドルの舞台作品を観に行く時って「その人を見たい気持ち」と「作品を楽しみたい気持ち」の両方の側面があって。アイドルファンならではの葛藤がいつもあります。

今回も両方の気持ちがありましたが、主演作品じゃなかったからこそ「より作品の中で俳優として生きてる感」を感じられたなあと。過去を振り返ると愛希れいかさん主演の「フラッシュダンス」とかもそうでしたね。

ミュージカル『フラッシュダンス』公式サイト

 

初回に観た時はたまたまカーテンコールで福ちゃんのコメントを聞く機会がありましたが、千穐楽では的場さんのコメントのみでしっかり締められていて。ファンからすると主演舞台で見慣れたカーテンコールとは違ったかもしれないけれど、それがむしろ良かったというか。

「この作品は楽しかったけど、毎回愛する我が子を2人失って苦しかった……」と、語られていた的場さん。終演後も晴れやかさ以上に切なさが残る表情が印象的で。それほど本気で父として賢治を愛してくださったのだなあ……と静かにそのありがたみを噛み締めていました。

 

◻️福田悠太と宮沢賢治の親和性

元から福ちゃんが宮沢賢治役に親和性があったのではなく、花巻を訪れつつ、宮沢賢治に全力で向き合ったからこそ生まれた今回の福田悠太版「宮沢賢治」だとは思うのですが。それにしてもやっぱり親和性を感じざるをえませんでした。37歳で亡くなった宮沢賢治を、今年37歳になる福ちゃんが演じるという運命的なものもありつつ……

恋人のように妹の世話をする賢治。好奇心旺盛で自由に動き回る賢治。使う言葉も、発想も、好む音楽も全てが小洒落た賢治。自分なりの愛を表現し続ける賢治。父親に見られないタイミングを狙って息を引き取る賢治。くるくるといろんな表情を見せる賢治は平和だけどどこかつかみどころがなくて。どことなく福田悠太を感じてしまいました。

何より、今回時間を作って観に行ってくれた宮沢賢治ファンの友人が「宮沢賢治への解像度が高すぎて引き込まれた、すごかった……宮沢賢治ファンとして、福田くんに演じてもらえて本当に良かったと思う」と言ってくれたのが本当に嬉しくて。ぜひ福ちゃん本人に伝えたいなあ、と。

 

 

賢治が息を引き取る瞬間の演技があまりにリアルすぎて、その前の健やかな姿とのギャップがあまりにありすぎて、しばらく涙が止まらなかったこと。

賢治と政次郎(父)のラストシーンでのやりとりが切なくて愛しくてあたたかくて……驚くほどロマンチックだったこと。

母親としてのイチの想い、弟としての清六の想いにもそれぞれ寄り添おうとすると、あまりに切なかったこと。

妹トシの働く女性としての立派さに頭が上がらなかったこと。

たくさんたくさん語りたいことはあるのですが、続きはまた「ふと思い出したとき」にぽつりつぶやいてみようかなと思います。

 

賢治が拾ってきた石をずっと大切にしていた政次郎のように。私もこの作品を大切に仕舞っておきつつ時々取り出せたらなと思います。

 

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